w'ANDのつれづれノート

w'AND illustration代表の佐藤祐輔が考える絵のこと、仕事のこと、社会のこと・・・そんなことを日々つづっていきます。

日常におけるアートの役割と効果

w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。

私は絵を描くことを生業としています。
といっても、小難しい顔をして「芸術とは〜」とか「人間存在とは〜」なんて哲学を語ってしまうようなものではありません。
私の絵をふと目にした人がほっと安心できたり、うれしくなったり、幸せを感じてもらえるような、そんな絵を目指しています。そんな絵が日常生活にもっと浸透すれば良いな、と考えています。
たとえば・・・

  • 忙しい日常にほっと一息つくために入ったカフェで
  • 友人たちと楽しいひとときを過ごしているレストランで
  • こころも身体もほぐれるセラピーサロンで

そういったところで「ほっとできる絵」が飾ってあったら、もっともっと豊かな気持ちになれると確信しています。

 

cafe lautreccafe lautrec / zoetnet

 

先日、都内のとある異業種交流会に参加してきました。
そこで海外経験の長い方と少しお話しをする機会がありました。
その方いわく、「欧米ではアートが日常のなかに浸透している」とのことでした。
対して、日本ではまだまだその傾向が弱く、投機対象として見られる傾向が強い、と。

絵を生業としている者としては残念な傾向です。

 

「絵なんてなんの役にもたたない」という声がときどき聞こえてきます。
知人の画家ですら、そういうことを言うこともあります。
たしかに農作物のように食べて命をつなげるものではありませんし、工業製品のように生活を便利にするものではありません。その意味で「役にたたない」は正解です。

 

HospitalHospital / morrissey

 

一方で、絵が重要な役割を担う場面も多数あります。
病院の待合室にやさしい色合いの絵が一枚飾ってあったらどうでしょうか。
病気の心配をしながらやってきた患者さんは、自分の名前が呼ばれるまで不安と緊張を抱えているでしょう。そんなときにふと目にしたやさしい絵。もしかしたらすこし、不安や緊張がとれていくかもしれません。

“建築医療”という学問分野があるそうです。
病気の治療方法や薬の成分といった医療行為そのものだけでなく、それを取り巻く環境、たとえば病院の内装や外装、建物の造り、素材、そういったものが治療効果に及ぼす影響を研究する学問だそうです。
緊張すると筋肉がこわばったり、怒ると血圧が上がったり、嬉しいと顔が上気したり、感情と身体の反応は密接に関係しています。「建物の造りが治療効果に影響を及ぼす」という考え方はあながち間違ってはいないと、私は思います。
だから、絵も同じように、現実的な効果があると考えています。

 

Medical/Surgical Operative PhotographyMedical/Surgical Operative Photography / phalinn

 

とある大学の医学系研究室では、グラフィックデザイナーをスタッフとして雇用しています。
「医学系の研究室がグラフィックデザイナー?」と思ったのですが、その方が果たしている役割を見て納得しました。

難しい科学を美しいビジュアルを用い人に分かりやすく伝える役割を担う。視覚を使って技術や成果を伝えることは人の心に深い印象を残すことができ、さらには社会への理解そして科学技術の発展に繫がると信じている。科学分野におけるアートの必要性を唱え、価値あるものにしようと奮闘中。

この方もアートが現実的に社会の役に立つと確信しているのです。
「絵が人のこころをいやし、ときほぐす」という私のアプローチとは異なりますが。

 

私は絵の、アートの力を信じています。
それは「生活を豊かにする」といったような抽象的な言葉で語られるものではありません。
もっともっと、現実的に役に立つ、意義のあるものです。
だから、アートを美術館や画廊にばかり閉じ込めておくべきではない、と考えます。