w'ANDのつれづれノート

w'AND illustration代表の佐藤祐輔が考える絵のこと、仕事のこと、社会のこと・・・そんなことを日々つづっていきます。

金融業者としての覚悟

w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。

 

「アートをビジネスとして成立させる」
w'AND illustrationが掲げる目標のひとつです。
この目標の実現のため、さまざまな業界の方とお話しをする機会を作っているところです。
コンサルティング、医療、金融、不動産・・・
お話しをしてみると、それぞれの業界に固有の悩みがあり、アートがそれを解決できる可能性もだんだん見えてきました。

 

こんなふうにいろいろな業界の方々とお話しをしていると、これまで思いもつかなかったような発想に出会うことがあります。
今日はとあるファンドの方から聞いた、「そのやり方はうまいな」と感心した金融商品と、「それってほんとに金融商品なの?」とおもってしまった金融商品の話です。

 

case1:診療報酬のタイムラグを利用した金融商品

 

Hospital Roberto Santos recebe novos médicos residentesHospital Roberto Santos recebe novos médicos residentes / Fotos Gov/Ba

 

これは医療機関を対象にした金融商品です。
私たちは保険のきく範囲の医療サービスを受ける場合、実際の医療費の3割を負担するだけで済みます。病院側に入るのは本来受け取れるはずの報酬の3割。残りの7割は、というとその2ヶ月後に国から医療報酬の形でお金がおりてきます。

サービスを提供してから実際に入金されるまで2ヶ月のタイムラグがあるのです。

病院によっては、このタイムラグが経営にとって命取りになることがあるそうです。
スタッフへの給与支払いや高額な医療機器の維持費など、病院の維持には多大なコストがかかります。
手元に現金がないと維持できない、というケースも多々あるそうです。

そこで、とあるファンドはあることを思いつきました。
その2ヶ月のタイムラグを埋めるため、診療報酬を債券化したのです。
病院が本来受け取る診療報酬を100万円としましょう。病院はすぐにでも現金がほしいのだけれど、国からお金がおちてくるのは2ヶ月後。そこで、このファンドは97万円を病院に支払い、満額の診療報酬を受け取る権利を買い取ります。2ヶ月後、ファンドは国から100万円を受け取ります。この差額の3万円がファンドの利益になります。

これは「診療報酬」という仕組みを巧みに利用した利益の出し方です。
簡単にいってしまえば「診療報酬を担保にした貸金」というところでしょう。
「こんなにまでして利益を出したいか?」とも思うのですが、もしこの仕組みのおかげで病院がつぶれずに済んでいるとしたら、私たちにとってもメリットのあることです。

 

同じようなことは飲食店でのクレジット決済でも行われているそうです。
クレジット決済の場合、店側に現金が入るのが決済の2週間後。そのタイムラグをファンドが埋めてあげることで飲食店の資金繰りをしやすくしています。
もしこのおかげでお気に入りのレストランがうまく回っているとしたら・・・と考えると、大事な仕組みのようにも思えてきます。

 

case2:展覧会の資金集めのためのファンド

 

The Story of TutankhamunThe Story of Tutankhamun / get directly down

 

このファンドでは展覧会の企画・運営も手がけるそうです。
最近のものでは2012年の大規模なエジプト展でした。
これは私たちが通常「金融業」と聞いて思い浮かべるものから少しかけ離れているように思います。

 

エジプト展のような大規模な展覧会を行うには多額の費用がかかります。
エジプト政府と交渉し、展示品を借り受け、日本に輸送し、日本で会場を用意し、設営や警備などのスタッフを雇う、これらに数億円のコストがかかります。しかも、展覧会をやったからといって必ずしも利益が出るとはかぎりません。
そこでこのファンドは一種のリスク商品として、資金を募りました。
たとえば、一口10万円、展示会の収益により数%のリターンを出資者にバック。ただし、展覧会が赤字の場合は元本が減る・・・このようなリスク商品です。

 

こんな金融商品があることに私はびっくりしました。
「金融業」というと「あちらからこちらにお金を動かしてその差額で設ける虚業」という、あまり良いイメージをもっていませんでした。ところが、「展覧会の企画」のような実際に形のあるものにお金を出していく、という仕事もしています。こうした仕事は単純に「虚業」とは呼べません。

 

 

私たちは実際はよく知らないのに、イメージだけで物事を判断してしまいがちです。
けれども実際にこうして話を聞いてみると、意外な発見があるものです。

 

ちなみに、私が話をうかがったファンドは「なるべく元本を減らさない運用」を理念としているそうです。
母体は金融ファンドなのですが、その他にIT会社、飲食店、アパレルなどの会社をもち、万が一ファンドが何らかの理由で大幅に資金を減らしてしまった場合、それら子会社を売却することで資金を保全する、ということをやっています。
そこまでしてファンドを運営しようとするところに、ビジネスパーソンとしての覚悟を感じたのでした。

 

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もしかしたら金融業に対するマイナスイメージは、お金そのものに対する悪いイメージに原因があるのかもしれません。私自身、最近になってようやく、お金に対するマイナスイメージがなくなってきました。

昔はそれこそ、「貴族のお抱え画家になれば一生困らない」なんてこともありましたが、現代ではそんなことは期待できません。絵描きが生き残っていくためにも、やはりビジネス感覚は必須だとおもっています。