w'ANDのつれづれノート

w'AND illustration代表の佐藤祐輔が考える絵のこと、仕事のこと、社会のこと・・・そんなことを日々つづっていきます。

絵描きがギャラリーと決別すべき理由

w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。

 

ここで何度も書いているように、私は「アートをビジネスとして成立させる」ことを目標の一つに掲げています。
事業を立ち上げるとき、その目標の最大の弊害になるのがギャラリーである、と考えました。
私は当面の間、ギャラリーを利用した個展は行うつもりがありません。
その理由について説明したいと思います。

 

この記事は「これから本気でアートで食べていきたいと考えている方」を対象としています。ですから、次のような方はこの記事の対象にはなりません。

  • 集客や広報など、アーティストのサポートをしっかり行っているギャラリーの方
  • 個展をやれば確実に収益が見込め、十分生活が成り立つアーティストの方
  • 展示することに意義があると考え、収益は度外視しているアーティストの方


逆に、次のような方に読んでほしいと思います。

  • 個展などを行ってきたが期待するほどの収益が得られていないアーティストの方
  • これからアートで食べていきたいがどうしたら良いか分からないアーティストの方

 

ギャラリーでの展示は「期間限定でお店を開く」こと

 

Shop in OiaShop in Oia / Klearchos Kapoutsis

 

「絵を売る」ことを目的とした場合、「ギャラリーを借りて個展を開く」ということは「期間限定でお店を開く」ことと同じです。
展示経験の浅いアーティストはここを勘違いしがちです。
ギャラリーがアーティストをプロデュースしてくれるわけではありません。
私自身もそうでした。

 

あなた自身のことを考えてみてください。
あなたが何を売っているかよく分からないお店に入る確率はどれくらいでしょうか?
街中であなたがそのお店に入るきっかけになるくらい興味をひく商品がどれだけあるか、考えてみましょう。
ショーウィンドウに興味のある商品が並んでいれば、そのお店に入ることもあるでしょう。ですが、残念ながら、通りすがりの人があなたの絵に興味を持つことは極めてまれです。

積極的に集客・広報活動をしなければ、あなたの個展はほとんど人がこない非常にさびしいものになるでしょう。

 

ギャラリーの広報活動は限定的

 

Street Promotion mit Morphsuits und QR CodesStreet Promotion mit Morphsuits und QR Codes / werbelaeufer

 

私が過去、個展やグループ展を行ってきたギャラリーはすべて、残念ながら集客や広報に積極的ではありませんでした。私が利用した以外に、これまで見てきたギャラリーの多くがそうです。

集客、広報はアーティストが自分でやるのが原則です。ギャラリーがアーティストをプロデュースするのは極めてまれなケースです。

利用する際に説明を受けたときには「顧客リストにDMを送る」というサポートをしてくださるギャラリーもありましたが、その「顧客リスト」のうち、どのくらいの人が自分の絵に興味をもつか疑問です。
最悪のケースだと、「個展をやったが土日に友人知人の一部しか来なかった」ということもあります。
「展示中に絵が新規顧客に売れること」を目的とするなら、この状況ではコストをかけて展示をする価値がありません。

 

東京都内のギャラリー賃料は6日間15万円程度が相場です。
銀座の一流と呼ばれるギャラリーになると1週間100万円するところもありますし、逆にギャラリーカフェのような場所では、店内の一部を3万円程度から借りられるところもあります。
この違いは、ギャラリーがもっている顧客の厚さ、見込まれる集客数、運営側の力の入れ具合などによって生まれるようです。

 

一般的なギャラリーの場合、運営側が集客に力を入れることはあまりありません。
「顧客リストにDMを送る」ことは多くのギャラリーでしてくれます。
それ以上のことを望むのなら、より高額だけれどもサポートのしっかりしたギャラリーを選ぶか、アーティスト自らが集客・広報活動をする必要があるのです。

ところが、多くのアーティストが集客や広報のノウハウをもっていません。
ここにギャラリー側とアーティスト側のミスマッチが発生するのです。

 

私がギャラリーと決別した理由

 

Crowd - Union Sq.  (LOC)Crowd - Union Sq. (LOC) / The Library of Congress

 

これまでの展示経験をふまえ、自分の絵で収益を出そうと思った場合、「ギャラリーで個展」というやり方は私自身にとって非常に効率の悪い方法である、という結論に達しました。
そこで、私自身は「自分の絵に興味をもってくれる人を自分から探しにいく」という活動に重点をおくようになりました。

 

「ギャラリーで展示をすることは期間限定のお店を出すこと」です。
一般のお店と同じで、広報活動に力を入れなければなりませんし、広報の効果が出てくるのには時間がかかります。効果を確認するためには個展を開かなければならず、コストがどんどんかさんでいきます。
これでは効率が悪い。

 

展示をやるアーティストはよく「たくさんの人にみてもらいたい」ということを口にします。
その真意はどこにあるのでしょうか?
収益を目的とする場合、「たくさんの人がみてくれれば、少しはお金を出してくれる人があらわれるだろう」という思いが背景にあるでしょう。
けれど、実際に「ギャラリーに足を運ぶ」という行動を起こさせるのはハードルが高い。もし来てくれたとしても、どんな人かよくわからない「たくさんの人」を相手にするのは大変です。

 

「相手に来てもらう」ことよりも「相手のところにいく」方がハードルはずっと下がります。
相手のところにいく場合、こちらから相手を選ぶことができます。
自分の絵に興味を持ちそうな人がどういう人か、を考えれば、会わなければいけない人も減るでしょう。
なんだかよくわからない「たくさんの人」に会うよりもずっと効率的です。

 

「たくさんの人」に見てもらうのも良いですが、「どういう人に見てもらいたいか?」を考えないと、ただの自己満足に終わる可能性が高いのです。

 

効果的にギャラリーを使うための留意点

 

The Effectives.The Effectives. / Anna Oates

 

それでも「どうしても個展をやりたい」という場合には次の観点でのギャラリー選びが重要になります。

  • 自分の絵が売れそうな顧客をそのギャラリーはもっているか
  • ギャラリーに入ってくる一般客の属性(年齢、性別、興味など)はどのようなものか
  • 集客・広報のサポートはどこまでやってくれるのか

これらのことを考えずに「ギャラリーから展示の誘いがきたから」という理由で展示をしていると、絵が売れないどころか人もほとんど来ない展示になってしまうでしょう。


絵を展示するホームページを運営していると、そうした展示のお誘いメールがよくきます。
以前は「ギャラリーに見込まれた!?」と思ったものですが、よく内容を確認すると通常の賃料がかかることがほとんどです。こうしたお誘いのほとんどは「ギャラリー利用の広告」です。安易にのってしまうと時間とお金を無駄にすることになるので、よくよく検討したいものです。

 

私がビジネスにこだわる理由

 

SCA CEO Jan Johansson and CFO Lennart Persson shaking handsSCA CEO Jan Johansson and CFO Lennart Persson shaking hands / SCA Svenska Cellulosa Aktiebolaget

 

アーティストがこのように収益にこだわることに眉をひそめる方がいらっしゃるのは十分承知しています。

「アートはもっと純粋なもので、金儲けの道具なんかじゃない!」

そういう気持ちは、私自身ももっていました。

 

私が収益にこだわるのは「絵を描き続けたいから」です。
どんな仕事でもそうですが、生活基盤が安定してはじめて良い仕事ができます。
生活できないほどになったら、その仕事は続けられません。
絵だってそうでしょう。生活できなければそれを続けることはできない。
生活が続けられなければ、どんなに「アートは純粋なものだ!」と叫んだところで、アートそのものが消滅してしまうでしょう。

 

そのためにも、私はアートをビジネスとして成立させたいと考えているのです。 

 

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アートにはまだまださまざまな可能性があると思っています。ギャラリーや美術館に展示するだけがアートではありません。その可能性に目を向ければ、アートをビジネスとして成立させることは十分可能だと考えます。

何かをしようと思っとき、まずは自分の存在を周囲にしってもらう必要があります。「広報は必要ない、良いものを作っていれば勝手に広まるから」という人もいますが、それは「すでにあなたのことを知っている人がある程度いる」ことが前提です。何かを始めたばかりの頃は、あなたの存在はほぼまったく知られていないといって良いでしょう。だから、広報は必要なのです。

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「良いものを作っていれば必ず売れる」という言葉の背後には「営業なんかしたくない」という気持ちが透けて見えます。しかし、良いものがそこにあるだけでは絶対に売れません。その存在が人に知られ、それが良いものであると認められる必要があるのです。そのプロセスを飛ばしてしまったら、本当は売れるものも売れなくなってしまいます。