絵描きのためのビジネス戦略2〜収益をあげることが大前提〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
前回から“絵描きのためのビジネス戦略”と題した記事を書き始めています。
私自身も含め、日本のアーティストの皆様がアートで自立できることを願ってのことです。
「絵で食っていくなんて無理」
世間ではそんな声が一般的でしょう。
絵描きになることを推奨する声をほとんど聞いたことがありません。
それだけ「絵で経済的に自立することは難しい」と考えられているようです。
私自身は絵描きが経済的に自立することは世間が思うほど難しいことではない、と考えます。
経済的な自立は難しい、と世間が考えるのは、絵描きを限定的なイメージで捉えているからだと、私は考えます。そして絵描き自身もその限定的なイメージの中でなんとかしようとしているからこそ、経済的な自立が難しくなっている。自分で自分の首を絞めているように私には見えてしまうのです。
その限定的なイメージとは「絵は個展や展示会などで売るもの」あるいは「本の装丁や挿絵、CDジャケットなどに使われる」というものです。絵は本来さまざまなシーンで用いられるものですが、その可能性の範囲を多くの人がせばめてしまっています。アーティスト自身、そうした可能性にあまり目を向けていないのが現状だというのが、私の感触です。
その限定的なイメージを取り除き、アートを改めて「ビジネス」という観点で見直すのが、“絵描きとしてのビジネス戦略”の目的です。
アートがきちんと収益に結びつけば、生活基盤が安定するでしょう。そうなれば、私が過去見てきたように「生活ができなくなって絵を辞めていく」という人が減るはずです。優れた才能をもつ人がひとりでも多くアートで自立できれば、日本のアートシーンはより活気づいていくでしょう。それが私の願いです。
これから何回かにわけてお話しするのは、アーティストがビジネスで自立するための考え方です。「絵を描く以外のことは何があってもやりたくない」とお考えの方、「いつかパトロンがつくのを待っている」という方のお役には立てないでしょう。逆にご自身で行動を起こされる心構えのある方には、なにかしらの手助けになるはずです。
それでは、始めましょう。
ビジネスにおける5W1H
前回も書いた通り、どんなビジネスでもまずは5W1Hを考える必要があります。
- 「なにを(what)」=提供する商品、サービス
- 「だれに(who)」=想定するお客様
- 「なぜ(why)」=商品・サービスを提供する意味と価値
- 「どこで(where)」=商品やサービスを提供する場所、地域、リアルorネット
- 「いつ(when)」=商品・サービス提供の時間帯、曜日、季節など
- 「どのように(how)」=5Wを具体的に提供する方法
※「どのように(how)」を「いくらで(how much)」に置き換えてもいいでしょう。
この5W1Hにひとつずつ、自分なりの答えをしっかり出していくことで、自然とおおまかなビジネス戦略は出来上がっていくと私は考えています。
世の中にはフィリップ・コトラーのマーケティング理論やマイケル・ポーターの競争戦略理論といったさまざまなビジネス戦略の理論が出ており、実際に現場で活用されています。これらの理論は経営学の先生たちが統計データや企業の事例を通して研究した成果です。それを学ぶことがむだだとは思いませんし、私自身、コトラーやポーターの理論をある程度は参考にしています。
しかし、ここでの目的はあくまで「アーティストであるあなたがビジネス戦略を立てられるようになること」です。経営学を学ぶことが目的ではありません。もしこの記事をきっかけに経営学に興味をおもちになったら、どうぞ専門書でより深めていってください。
すべてのビジネスの目的は収益をあげること
具体的な話題に入る前にまず確認したいことがあります。
「すべてのビジネスの目的は収益をあげること」
なぜこれを確認したかというと、勘違いされている方が多いからです。
「ビジネスとは社会貢献することではないのか」
「困っている人を助けるのがビジネスでしょう」
「ビジネスは夢をかなえていくためのものです」
このようにおっしゃる方も多いかと思います。
たしかにその主張は間違っていません。しかし、これらは「あなたが商品やサービスを提供することでもたらされる価値」であって、「ビジネスそれ自体の目的」ではありません。ここを取り違えて混乱している方が多いように思います。
病院の例が分かりやすいかもしれません。
お医者さんの多くは「病気の人をたすけたい、苦しみを少しでも減らしたい」と考えているでしょう。これは「お医者さん自身が医療行為を患者さんに施す目的」です。つまり「お医者さん自身の目的」、5W1Hでいうところの「なぜ(why)」に相当する部分です。
しかし、実際には病院を経営していかなくてはなりません。病院経営の目的は収益をあげることです。収益をあげなければ病院を存続させられないからです。
「ビジネスを行うあなた自身の目的」と「ビジネスそのものの目的」ははっきり切り分けて考えるべきなのです。でなければ、収益をあげることだけが目的になってしまうか、収益をあげることを無視してしまうか、いずれかになってしまうからです。
※収益をあげることは重要ですが、それだけが目的になることを私は良いことだとは考えていません。それについては別の項目でご説明したいと思います。
ビジネスを続けていくには収益をあげなければいけません。ですから、これからあなたがアートをビジネスの観点から見直そうとするとき、「収益があげられること」を大前提に考えていかなければなりません。
収益の2つの柱
「収益をあげること」がビジネスの目的です。
これから考えていくのはビジネス戦略、つまり「いかに収益をあげていくか?」ということです。
収益には大まかに2種類あります。
- 勤労所得
個人の労働に対して支払われる対価。給与、賃金、謝礼金、報酬など。
- 不労所得
労働の必要がない所得。不動産収入、株式による利益、印税、ライセンス収入など。
会社勤めやアルバイトの対価は給与所得として支払われます。絵を売った場合、その絵を描いたという作業に対して対価が支払われているので、これも勤労所得と言えるでしょう。
一方、絵描きの場合でしたら画集などを出版してその印税が得られれば、不労所得になります。もちろん画集を作るのに割いた労力はありますが、印税はその労力に対して支払われているものではありません。画集出版に際して勤労所得があるとしたら、原稿料という形になるでしょう。
一般的に、収益を確保していくには不労所得の比率を高めていくのが望ましい、とされています。
たとえば本を出版した場合のように、一冊あたりの印税額は高くなくとも、長期的に収益があがる手段を確保できたら、収益としては安定するからです。
キャラクタービジネスが良い例でしょう。キャラクターを発案し、グッズ展開されてビジネスが広がっていった場合、キャラクターのライセンス料が不労所得になります。ヒットすれば大きな収益の柱になるでしょう。そこまでヒットしなくても、そうした不労所得による収益があることは経済的な安定につながるのです。
逆に、会社勤めである、つまり勤労所得が収益の柱で、しかもそれが一つしかないのは非常に危険です。会社が倒産する、解雇される、という事態になればあなたは収益の柱を一挙に失ってしまうことになるからです。
個人起業の本には必ずと言っていいほど次のことが書いてあります。
「取引先はひとつにしぼらず、複数にすること」
クライアントや取引先を、相手が大手だからといってひとつにしぼってはいけない、ということです。その相手がいなくなったら、取引相手がひとりもいなくなってしまうからです。
これと同じように、収益の柱もひとつにしぼらず、複数もっておいた方が、安定した収益を得ることができるでしょう。
※ただし、注意していただきたいのは「不労所得のパフォーマンスは時間経過とともに変化する」という点です。もしあなたがマンションをもっており、家賃収入があるとします。マンションがすべて埋まっていれば問題ありません。しかし、今後20年の間に東京の空き家率は40%を超えるようになる、とも言われています。20年後にあなたが同じ家賃収入を得られるとはかぎりません。
したがって、不労所得の源泉は定期的なメンテナンスが必要です。場合によっては思い切ってマンションを売却してしまった方が良い場合もあります。
これは投資と回収の考え方そのままです。投資に関してはまた別の項目を立てて考えていきたいと思います。
経済的な自立を得るにはお金を得る手段をもつことが必要です。
ここは勘違いしないで欲しいところです。
生活基盤を安定させるのはお金そのものではありません。お金を得る手段です。
お金がなくても、お金を得る手段さえもっていれば、いつでも生活に必要なお金が得られるようになります。その「お金を得る手段」がすなわち「ビジネス」なのです。
次回からビジネスにおける5W1Hをひとつずつ、考えていきましょう。
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