絵描きのためのビジネス戦略5〜自己満足と顧客満足〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
前回、前々回で“ポジショニング”と“ターゲッティング”についてお話ししました。
ここですこし補足しておきます。
“ポジショニング”“ターゲッティング”は自分の仕事を絞り込むために行うものです。
絞り込む、とは自分のやることとやらないことを決めること。
つまり取捨選択です。
ユニクロは顧客ターゲットを老若男女問わず、幅広く設定しています。
ターゲッティングの考え方からすれば顧客層を幅広くしすぐのようにも見えます。
しかし、ユニクロは“スタンダードなアイテムを低価格で”というポジショニングをしました。
他のアパレル業者が流行を追ったり独自色を強めるのに対し、ユニクロはスタンダードなアイテムのみを取り扱うようにしたのです。
たしかに顧客ターゲットは幅広く設定していますが、ポジションは限定的、ともいえます。
ポジショニングとターゲッティングで自分のやるべきことが明確になります。
それによって、無駄をなくし、自分の立場をはっきりさせていくのです。
以上、前回までの補足でした。
今回のテーマは“コンセプト”です。
“コンセプト”にはふたつの捉え方があります。
- あなたの作品の“コンセプト”
- あなたの事業の“コンセプト”
このふたつを取り違えると大変な失敗をすることになります。
では、まずこのふたつの違いを考えていきましょう。
自己満足と顧客満足
お客さんはなぜ、商品やサービスにお金を払うのでしょうか?
「そんなのわからないよ!」といきなり考えるのを投げ出してしまったあなた、なぜすぐに考えるのをやめてしまったのですか?
あなたは日常的にお金を払って商品やサービスを買っているはずです。
それならば、「あなたはなぜ、お金を払うのか?」と考えればいいはずです。
※他人のことはいきなりは分からなくて当然です。だとしたら、自分に置きかえるか、自分に近しい人たちに置きかえて考えてみましょう。意外に答えが見つかるはずです。
考えてみたでしょうか?
答えは簡単。
お客さんはその商品やサービスを“欲しい”と思うからです。
その“欲しい”の背景にはさまざまな理由があります。
たとえば「甘いお菓子が欲しい」と思ったとき、甘いお菓子を手に取っただけで十分な人は少ないでしょう。その後、きっと食べるはずです。では、甘いお菓子を食べたら何が得られるのか。甘い味です。では、その甘い味から何が得られるのか。満足感です。
つまり、人が何かを“欲しい”と思ったとき、その背後には“欲求を満足させたい”という願望が隠れているのです。
食欲を満たすために食品に、金銭欲を満たすためにギャンブルに、自己顕示欲を満たすために服に、とそれぞれ理由はさまざまでしょうけれども、欲求を満足させるために、人はお金を払うのです。
逆に考えると、その商品やサービスが“自分の欲求を満たせるかどうか?”がお金を払う判断材料になっている、ということです。ということは、売り手側が買い手側に「この商品やサービスはあなたの欲求を満たすことができますよ」ということをアピールする必要があります。
前回の“ターゲッティング”の記事でスターバックスとドトールを比較しました。スターバックスは上質な時間を、ドトールは安価で手軽な休息の時間を、それぞれ提供しています。それは店内の作りや品ぞろえ、価格設定などからもうかがえます。つまり、店内の作りや品ぞろえ、価格設定などによってそれぞれが提供できるものをアピールしている、ということもできるのです。
この“お客さんに対して提供している価値”を短い言葉にまとめたのが“事業コンセプト”です。
では、ここでもうひとつ質問です。
あなたの絵のコンセプトはなんですか?
私の場合、“美しく幻想的で、人の心に焼き付くような光と影”です。
私はこのような作品になることを目指して、作品を制作しています。
しかし、これは「私はこういう作品を作りたい」という思いであって、これがお客さんに提供できる価値そのものか、と言われると疑問です。作品コンセプトは自分の思いを満たすものではあっても、お客さんの欲求を満たせるかどうかは分からないからです。
このように考えると、事業コンセプトが顧客満足を指向しているのに対し、作品コンセプトは自己満足を指向している、と言えるでしょう。
※誤解のないように書き添えますと、顧客満足、自己満足のどちらが良くてどちらが悪い、ということではありません。作品コンセプトがしっかりしていることは大事だと思います。一方であなたの絵がお客さんに対してどんな価値を提供できるのか、さらに言えばどんな欲求をどんなふうに満たすことができるのか、を考えなければ、あなたの絵を売るために何をしたら良いのか、がいつまでたってもわかりません。
自分を変えるな、自分の考え方を変えよ
なにやら小難しいことを書いてしまいました。
けれども、私は「あなたは顧客獲得のために自分の絵柄を変えるべきだ」とは言いません。
むしろ逆、あなたは自分の絵柄を変えてはいけません。
変えるのはあなたの考え方です。
これまでたくさんのアーティストさんにお会いしてきました。
多くの方が素晴らしい作品を作っています。
自分の内面と向きあい、苦しみながらも作品を産み出しています。
それがときおり語られる“作品コンセプト”という形に結実しているのでしょう。
けれど、彼ら彼女らの口から“この絵を見たら、所有したら、何が得られるのか?”が語られることはまずありません。
世にあふれる商品やサービスはひとりでも多くのお客さんをつかもうと、自分たちの良さや効果を懸命にアピールしています。絵で収益をあげようとしたら、同じこと、つまり自分たちの絵の良さやそれによって得られるものをアピールする必要があるのではないですか?
絵柄を変えるのは商品を変えることと同じです。
たとえば昨日までコーヒー専門でやっていた喫茶店が、今日から突然紅茶しか出さなくなったらどうでしょうか?コーヒーが売れないから紅茶に、というのでは長く紅茶専門でやっている喫茶店に簡単に負けてしまうでしょう。コーヒーが売れないのなら、売り方を考えるべきなのです。
絵も同じ。
売れないのはあなたの絵が悪いからではない。
売り方が悪いのです。
あらためて、ご自身の絵を眺めてみてください。
それはあなたの商品です。
その絵は、お客さんに対してどんな価値が提供できますか?
お客さんのどんな欲求を満たすことができるでしょうか?
あなたが絵を自分の部屋に飾ることを想像してみてください。
そのときのあなたの感じる感情が、顧客満足を考える糸口になるはずです。
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