絵描きのためのビジネス戦略6〜確率と行動指針〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
これまで“ポジショニング”、“ターゲッティング”、“コンセプト”とビジネス戦略の基礎になる考え方をご紹介してきました。
今回は少し趣向を変えて、具体的な行動指針を売上目標から導き出す、という話をしましょう。
その前にまず、宝くじの話をしたいと思います。
なぜ宝くじか、というと、投資効率を考える上で良い例になるからです。
宝くじは当選確率がはっきりしており、当選したときの回収金額も分かっています。
簡単な計算をすることで、宝くじの投資効率が分かります。
この計算から、ビジネスをする際の投資効率の重要性を理解してもらう、というのが今回の趣旨です。
確率の考え方に慣れると売上計画を立てやすくなり、売上を上げるための行動指針が得られるので、しっかりついてきていただけるとうれしいです。
宝くじの当選確率を計算する
まず宝くじの当選確率を計算していきましょう。
今回は2012年年末ジャンボ宝くじをモデルに考えます。
宝くじの当選番号は組と番の組み合わせでできています。
組は01組から100組までの100通り。
番は100000番〜199999番の100,000通り。
したがって、宝くじの券に記載されている番号の組み合わせは
100 × 100,000 = 10,000,000
全部で1,000万通りになります。
つまり、理論上、宝くじ発券枚数の上限は1,000万枚ということになります。
次に、各等の当選条件を見てみましょう。
等 | 条件 | 当選金額 |
---|---|---|
1等 | 組と番が的中した一通り | 4億円 |
1等前後賞 | 組が1等と同じで番が1等の1番違い | 1億円 |
1等組違い賞 | 番が1等と同じで組が1等と異なる | 10万円 |
2等 | 組と番が的中した三通り | 3000万円 |
3等 | 組に関わらず番が的中 | 100万円 |
4等 | 番の下4桁が的中 | 10万円 |
5等 | 番の下2桁が的中 | 3000円 |
6等 | 番の下1桁が的中 | 300円 |
この条件から各等の当選確率を計算すると次のようになります。
1等 1/1000万 (1000万枚のうちの1枚なので)
1等前後賞 2/1000万 (1000万枚のうちの2枚なので)
1等組違い賞 99/1000万 (組は100通りだが1等が確定しているので99通り)
2等 3/1000万 (的中は3通りあるので)
3等 100/1000万 (番のみ的中なので、100通りの組が的中)
4等以降は下◯桁的中、という形なので、少し計算方法を変えます。
4等 1/10000 (下4桁は0〜9999の1万通りなので)
5等 1/100 (下2桁は0〜99の100通りなので)
6等 1/10 (下1桁は0〜9の10通りなので)
以上の計算結果から、各等の当選確率は次のようになります。
等 | 当選確率 |
---|---|
1等 | 0.00001% |
1等前後賞 | 0.00002% |
1等組違い賞 | 0.00099% |
2等 | 0.00003% |
3等 | 0.00100% |
4等 | 0.01000% |
5等 | 1.00000% |
6等 | 10.00000% |
宝くじの投資効率
1等が確実に出るためには、1000万枚の宝くじを買う必要があります。
仮に1000万枚買ったときの回収金額を計算してみましょう。
等 | 当選枚数 | 回収金額 |
---|---|---|
1等 | 1 | ¥400,000,000 |
1等前後賞 | 2 | ¥200,000,000 |
1等組違い賞 | 99 | ¥9,900,000 |
2等 | 3 | ¥90,000,000 |
3等 | 100 | ¥100,000,000 |
4等 | 1,000 | ¥100,000,000 |
5等 | 100,000 | ¥300,000,000 |
6等 | 1,000,000 | ¥300,000,000 |
合計 | ¥1,499,900,000 |
宝くじを1000万枚買った場合、回収できる金額は約15億円です。
では宝くじ1000万枚の購入にはいくら必要でしょうか?
宝くじ1枚を300円とすると
300 × 10,000,000 = 3,000,000,000
宝くじ1000万枚の購入には30億円必要です。
つまり、仮に宝くじを買い占めても半額しか回収できないことになります。
投資効率は-50%、と言うこともできますね。
この結果を見て、投資したお金の回収を目的として宝くじに投資しようと思うでしょうか?
誤解のないように補足しておきますと「宝くじの収益金のおよそ4割は全国の地方公共団体に納められ、公共事業などの社会貢献活動費として使われている」ということを忘れてはいけません。東京都では「子育て推進交付金」「認証保育所事業」「公園・街路整備」などに使われている、とあります。宝くじ1枚300円のうち、およそ120円は公園や道路、保育所の整備に使われている、と考えると、その120円は誰かの役にたっているのです。
このように確率計算をすると確かに宝くじの投資効率はマイナスになります。しかしその一部が「社会がより便利で快適になるために使われている」と考えると、日々生活をする上で十分回収できている、と考えることもできるのです。
- 宝くじ公式サイト 収益金の使い道と社会貢献広報
- 宝くじ公式サイト 収益金の使い道「収益金充当事業一覧」
売上目標を行動計画に落とし込む
このように物事を確率でとらえられるようになると、ビジネスをする上での行動指針が立てやすくなります。
以下、売上目標を行動計画に落とし込んでいくための大まかな考え方をお示しします。
ここで売上とはなにか、をあらためておさらいしておきましょう。
なにをいまさら、と思わず、復習と思って読んでください。
売上は一般に次の式で表せます。
売上 = 商品単価 × 販売件数
ここから諸経費を差し引いたものが経常利益、つまり儲けになります。
経常利益 = 売上 - 人件費 - 必要経費 - 仕入れ
皆さんが個人の絵描きであることを考えると、人件費と仕入れはほぼゼロと考えて良いでしょう。ということは、利益を最大化するためには売上をあげるか必要経費を落とすか、どちらかになります。しかし、アトリエにこもって作業をしている場合、必要経費といってもたかが知れています。したがって、儲けを増やすには売上を上げるのが一番手っ取り早い、ということになります。
※一般的な企業の場合はこの限りではありません。一般的な企業の場合、売上げよりも諸経費を減らす方が簡単です。そのためのさまざまな技術がありますが、ここではそこまで立ち入らないことにします。
さて、あらためて売上の式を眺めてみましょう。
売上 = 商品単価 × 販売件数
この式から、売上を上げるには商品単価を上げるか販売件数を増やすか、いずれかの方法をとることになります。
商品単価を上げるのには慎重な検討が必要です。というのも、単価が高すぎると購入者数が減る可能性があり、単価が低すぎると販売件数を増やしても目標売上に達しない可能性があるからです。商品単価の決定には市場の動向、顧客ターゲットの層と心理、経済状況、商品の希少性と競合状態を考慮しなければなりません。
考え出すときりがないので、ここでは2冊の本を紹介するにとどめておきましょう。
価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?
- 作者: リー・コールドウェル,武田玲子
- 出版社/メーカー: 日本実業出版社
- 発売日: 2013/02/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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最新 行動経済学入門 「心」で読み解く景気とビジネス (朝日新書)
- 作者: 真壁昭夫
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2011/07/13
- メディア: 新書
- 購入: 7人 クリック: 202回
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いずれも、心理学的な側面から人間の経済活動を捉えようとする試みです。商品の価格設定に大いに参考になるでしょう。機会があれば内容の一部をご紹介したいとおもいます。
では、もう一方の選択肢である「販売件数を増やす」について考えてみましょう。
あなたが個展での絵の販売を収益の柱にしていると想定します。
計算の簡略化のため、絵の単価を3万円に設定します。
一回の個展あたり、20枚の絵を展示して5枚売れる、と仮定します。
これを売上の式に当てはめると
30,000 × 5 = 150,000
一回の個展あたり15万円の収益となります。
1人あたり1点購入した、とすると5人が購入したことになります。
このとき、期間中の来場者数を100名とすると、購入確率は2%になります。
では、絵の購入確率は何によって決まるでしょうか。
おそらく、次のような要因によって決まるでしょう。
- 期間中の総来場者数
- 来場者中のファンの割合
- 丁寧に説明をした割合
※他にも要因はたくさんありますから、ご自身でしっかり考えてみてくださいね。
これを式に直すと次のようになります。
販売件数 = 期間中の来場者数 × ファンの割合 × 丁寧に話しかけた割合
売上を上げる、つまり販売件数を増やすには上の3要素を増やせば良い、ということになります。ですが、来場者数が増えても、その中の見込み顧客の割合が少なければ意味がありません(冷やかしが増えると労力ばかりかかってしまいますよね)。ということは、ファンを増やすか個展会期中にお客さんに丁寧に声をかける率を増やせば良い、という行動指針が得られます。
もし、人に話しかけるのが自分だけでは難しいようなら、手伝ってくれる方を探すのも良いでしょう。絵の販売1件あたり10%の手数料を支払うとして、販売件数が倍になったらどうでしょうか。
30,000 × 10 - (3,000 × 10) = 270,000
3万円の人件費がかかってしまいますが、いつもより12万円ほど売上が増えました。
とすれば、お手伝いをお願いする、というのも悪い選択ではない、ということになります。
「売上をあげるために今日もがんばりましょう!」と抽象的なかけ声をかけるよりもよほど明確です。
確率が行動指針を浮かび上がらせる
ものごとの成否の確率は「それをやるべきか否か」と「それをどのようにやるか」を考える指針になります。
たとえば冒頭にあげた宝くじの例のように、あらためて考えてみると投資効率がマイナスになってしまうようならば、それには投資をすべきではありません。なぜなら、宝くじの当選確率は自分の行動を変えたところで変えられないからです。
一方、売上に直結する販売確率は自分の行動によって変えられます。個展での販売の例のように、お客さんに丁寧に対応する回数を増やすだけで販売件数が増えるかもしれません。ファンの方への個展のお知らせをいつもより多くするのも良いかもしれません。
こうした行動指針はなんとなく「がんばろう」と思うだけでは見いだせません。
売上に関わる要因を見つけ出し、それを具体的に改善していくことで達成できるものです。
どうぞ、あなたのふだんの行動をあらためて見つめ直してみてください。
ふだん、あなたはどんな行動をしていますか?
その行動は売上にどんな影響を及ぼしているとおもいますか?
売上をあげたいとおもったら、その行動をどのように変えたら良いでしょうか?
売上目標の式を自分なりに作ってみてください。
それをじっくり眺めることで、今後の行動指針が得られるはずです。
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絵描きのためのビジネス戦略5〜自己満足と顧客満足〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
前回、前々回で“ポジショニング”と“ターゲッティング”についてお話ししました。
ここですこし補足しておきます。
“ポジショニング”“ターゲッティング”は自分の仕事を絞り込むために行うものです。
絞り込む、とは自分のやることとやらないことを決めること。
つまり取捨選択です。
ユニクロは顧客ターゲットを老若男女問わず、幅広く設定しています。
ターゲッティングの考え方からすれば顧客層を幅広くしすぐのようにも見えます。
しかし、ユニクロは“スタンダードなアイテムを低価格で”というポジショニングをしました。
他のアパレル業者が流行を追ったり独自色を強めるのに対し、ユニクロはスタンダードなアイテムのみを取り扱うようにしたのです。
たしかに顧客ターゲットは幅広く設定していますが、ポジションは限定的、ともいえます。
ポジショニングとターゲッティングで自分のやるべきことが明確になります。
それによって、無駄をなくし、自分の立場をはっきりさせていくのです。
以上、前回までの補足でした。
今回のテーマは“コンセプト”です。
“コンセプト”にはふたつの捉え方があります。
- あなたの作品の“コンセプト”
- あなたの事業の“コンセプト”
このふたつを取り違えると大変な失敗をすることになります。
では、まずこのふたつの違いを考えていきましょう。
自己満足と顧客満足
お客さんはなぜ、商品やサービスにお金を払うのでしょうか?
「そんなのわからないよ!」といきなり考えるのを投げ出してしまったあなた、なぜすぐに考えるのをやめてしまったのですか?
あなたは日常的にお金を払って商品やサービスを買っているはずです。
それならば、「あなたはなぜ、お金を払うのか?」と考えればいいはずです。
※他人のことはいきなりは分からなくて当然です。だとしたら、自分に置きかえるか、自分に近しい人たちに置きかえて考えてみましょう。意外に答えが見つかるはずです。
考えてみたでしょうか?
答えは簡単。
お客さんはその商品やサービスを“欲しい”と思うからです。
その“欲しい”の背景にはさまざまな理由があります。
たとえば「甘いお菓子が欲しい」と思ったとき、甘いお菓子を手に取っただけで十分な人は少ないでしょう。その後、きっと食べるはずです。では、甘いお菓子を食べたら何が得られるのか。甘い味です。では、その甘い味から何が得られるのか。満足感です。
つまり、人が何かを“欲しい”と思ったとき、その背後には“欲求を満足させたい”という願望が隠れているのです。
食欲を満たすために食品に、金銭欲を満たすためにギャンブルに、自己顕示欲を満たすために服に、とそれぞれ理由はさまざまでしょうけれども、欲求を満足させるために、人はお金を払うのです。
逆に考えると、その商品やサービスが“自分の欲求を満たせるかどうか?”がお金を払う判断材料になっている、ということです。ということは、売り手側が買い手側に「この商品やサービスはあなたの欲求を満たすことができますよ」ということをアピールする必要があります。
前回の“ターゲッティング”の記事でスターバックスとドトールを比較しました。スターバックスは上質な時間を、ドトールは安価で手軽な休息の時間を、それぞれ提供しています。それは店内の作りや品ぞろえ、価格設定などからもうかがえます。つまり、店内の作りや品ぞろえ、価格設定などによってそれぞれが提供できるものをアピールしている、ということもできるのです。
この“お客さんに対して提供している価値”を短い言葉にまとめたのが“事業コンセプト”です。
では、ここでもうひとつ質問です。
あなたの絵のコンセプトはなんですか?
私の場合、“美しく幻想的で、人の心に焼き付くような光と影”です。
私はこのような作品になることを目指して、作品を制作しています。
しかし、これは「私はこういう作品を作りたい」という思いであって、これがお客さんに提供できる価値そのものか、と言われると疑問です。作品コンセプトは自分の思いを満たすものではあっても、お客さんの欲求を満たせるかどうかは分からないからです。
このように考えると、事業コンセプトが顧客満足を指向しているのに対し、作品コンセプトは自己満足を指向している、と言えるでしょう。
※誤解のないように書き添えますと、顧客満足、自己満足のどちらが良くてどちらが悪い、ということではありません。作品コンセプトがしっかりしていることは大事だと思います。一方であなたの絵がお客さんに対してどんな価値を提供できるのか、さらに言えばどんな欲求をどんなふうに満たすことができるのか、を考えなければ、あなたの絵を売るために何をしたら良いのか、がいつまでたってもわかりません。
自分を変えるな、自分の考え方を変えよ
なにやら小難しいことを書いてしまいました。
けれども、私は「あなたは顧客獲得のために自分の絵柄を変えるべきだ」とは言いません。
むしろ逆、あなたは自分の絵柄を変えてはいけません。
変えるのはあなたの考え方です。
これまでたくさんのアーティストさんにお会いしてきました。
多くの方が素晴らしい作品を作っています。
自分の内面と向きあい、苦しみながらも作品を産み出しています。
それがときおり語られる“作品コンセプト”という形に結実しているのでしょう。
けれど、彼ら彼女らの口から“この絵を見たら、所有したら、何が得られるのか?”が語られることはまずありません。
世にあふれる商品やサービスはひとりでも多くのお客さんをつかもうと、自分たちの良さや効果を懸命にアピールしています。絵で収益をあげようとしたら、同じこと、つまり自分たちの絵の良さやそれによって得られるものをアピールする必要があるのではないですか?
絵柄を変えるのは商品を変えることと同じです。
たとえば昨日までコーヒー専門でやっていた喫茶店が、今日から突然紅茶しか出さなくなったらどうでしょうか?コーヒーが売れないから紅茶に、というのでは長く紅茶専門でやっている喫茶店に簡単に負けてしまうでしょう。コーヒーが売れないのなら、売り方を考えるべきなのです。
絵も同じ。
売れないのはあなたの絵が悪いからではない。
売り方が悪いのです。
あらためて、ご自身の絵を眺めてみてください。
それはあなたの商品です。
その絵は、お客さんに対してどんな価値が提供できますか?
お客さんのどんな欲求を満たすことができるでしょうか?
あなたが絵を自分の部屋に飾ることを想像してみてください。
そのときのあなたの感じる感情が、顧客満足を考える糸口になるはずです。
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絵描きのためのビジネス戦略4〜効率とターゲッティング〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
最初に、前回の“ポジショニング”について補足があります。
絵描きが市場に対して自分のポジションをとる場合、大まかに三通りの考え方があります。
- 自分の描いている絵に合わせてポジションをとる
- 自分がねらいたいポジションに合わせて絵柄を変える
- クライアントの望むものはなんでも描く
器用な方なら3のポジションの取り方も十分ありだと考えます。
「あの人に頼めばなんでも描いてくれる」というのは他と大きく差別化できる優位点になるからです。ただ、3のポジションはあくまで絵を描くことを技能として割り切れる方に限られるようにも思います。自分の世界観にこだわりのある方にとっては大きなストレスになるでしょう。
2のポジションはまだ自分のスタイルがかたまっていない方に有効なポジションの取り方でしょう。
売れる絵柄や競合がほとんどいない絵柄を見つけ出して自分のスタイルにし、先行者優位を確立してしまうのです。他に先んじることができれば、競合が育つまでの間は安泰でしょう。
しかし、私がここで書いている“絵描きのためのビジネス戦略”では、2や3のポジションを狙う方を対象にはしていません。
私がこれまでみてきた多くの絵描きは、すでに自分の絵の世界観ができており、それをお金に変えることが出来ずに苦しんでいたからです。2や3のポジションのように簡単に自分の絵柄を変えられるのであれば良いですが、すでに自分の世界観ができあがっている場合、それを大きく変えていくのは難しい。それならば、自分の絵柄がうまくはまるマーケットを見つけていく方が苦労も少ないはずです。
※余談になりますが、「絵を仕事にしてしまうと自分の好きなように描けなくなる」という悩みを持つ方が多いように思います。それはおそらく、1のポジショニングを指向しているのに2もしくは3のポジションをとってしまったために発生した、自分の思いと市場における位置づけの食い違いによるものと思います。
前置きが長くなりました。
今回の本題は“ターゲッティング”です。
“ターゲッティング”とは平たくいえば「売る相手を絞り込む」ということです。
年齢、性別、職業、好み、ライフスタイル・・・そうした要素を絞り込んだ顧客ターゲットを設定することです。
前回の記事の中で“ポジションをとるということは顧客を絞り込むこと”と書きました。
“ポジショニング”と“ターゲッティング”は密接に関係しています。
まずは前回あげたスターバックスとドトールの比較を使って、ポジショニングとターゲッティングの関係をみていきましょう。
スターバックスとドトールにみる顧客ターゲットの違い
前回の記事の中で、スターバックスとドトールの特徴を比較しました。
スターバックス | ドトール |
---|---|
店内禁煙 | 店内喫煙可 |
広い店内とゆったり座れるスペース | 店内は広くなく一人当たりの面積が狭い |
家では作れない種類のコーヒー | 主力は一般的なコーヒー |
フード類は少ない | ランチや軽食に最適なフード類が豊富 |
この比較から、スターバックスとドトールの戦略の違いが浮かび上がります。
スターバックスは来店客の滞在時間が長いため、回転率が低くても収益をあげる戦略が必要になります。スターバックスのコーヒーを「ちょっと高い」と感じられる方もいらっしゃるでしょう。それは回転率を低くするかわりに客単価をあげて収益を確保するためです。そのため、「どこでも飲める」という類いのコーヒーは用意せず、珍しい種類のコーヒーを取り揃えています。
一方のドトールは客単価をおさえるかわりに回転率をあげる戦略をとっています。ドトールのコーヒーは一般的なものですが、低価格なため「ちょっと時間つぶしに」と払える金額設定になっています。ドトールの店内を思い浮かべると、ゆったり座れるスペースはなく、背もたれのない高い椅子や長く座っているとお尻がいたくなるような堅い椅子が置かれています。これも回転率をあげる工夫のひとつでしょう。
スターバックスは「上質のコーヒーでゆったりした時間を楽しんでもらう」というポジションを、ドトールは「低価格で手軽にコーヒーが飲める」というポジションを、それぞれとっていることになります。
では、スターバックスにはいる人とドトールにはいる人の違いはなんでしょうか?
スターバックスを利用する人の多くは「ゆったりした時間を店内ですごしたい」と考えています。喧噪から逃れてしずかな時間をすごし、気持ちをリラックスさせることを求めています。そうした時間と空間にもお金を払うと考えれば、他のコーヒーショップチェーンよりも少々単価が高くても構いません。
対してドトールを利用する人の多くは「次の約束までの15分をつぶしたい」「15分で簡単なランチを済ませたい」といったニーズをもっています。すきまの時間を安く手早く消化したいため、リラックスできる空間は求めていません。必要なのは安さとスピードです。
私の経験になりますが、「ゆっくりしずかに本を読みたい」と思ったときにドトールに入るとどうにも落ち着きません。人の出入りが多いですし、どうも急かされている気分になるからです。逆に10分で良いので座ってすこし休みたい、という時はドトールの安さはとても重宝します。
逆のことがスターバックスにもいえます。10分だけ休みたいのにゆったりした椅子に座ってしまうと、そのまま立ち上がりたくなくなってしまうのです。これはこれで困りものです。
このように、顧客にはそれぞれ求めているニーズがあります。
ニーズは多種多様ですから、すべてを満たそうと思うと逆になんの特徴もないものになってしまいます。
ですから、「自分が提供するサービスは顧客のどういったニーズを満たすことができるのか?」を考えることが重要になってきます。
これが「誰に売るのか?」を考えること、つまり“ターゲッティング”です。
曖昧な「たくさんの人」の像を具体化する
個展を開くアーティストの多くが「たくさんの人にみてもらいたいです!」ということをよく口にします。
私自身もかつてはそうでした。
けれども、残念ながらマーケティングの観点からすると、この考え方は落第です。
ただ「たくさんの人」に呼びかけても無駄玉が多くなってしまうからです。
個展のDMを配るのにもコストがかかります。ビジネスの観点からすると、最低限のコストで最大限の効果を得ることを考える必要があります。
あなたが「たくさんの人に個展にきてもらいたい」と思ったとき、それは誰でも良いでしょうか?
もし来場者数だけを増やしたいのなら、知り合いの介護施設や幼稚園、小学校、学習塾などの先生や職員に呼びかけて施設入所者や生徒たちを連れてきてもらえば良い。来場者数は一気に伸びるでしょう。
けれど、あなたが求めているのはこういうことではないはずです。
「たくさんの人」といっても、ぼんやりと「こんな感じの人」というイメージがあるのではないでしょうか。
たとえば・・・
- 自分の絵に興味をもってくれてブログやSNSで紹介してくれる人
- きちんと絵をみてくれて的確な批評やアドバイスをくれる人
- お金持ちで自分の絵にお金をはらってくれる人
- 出版関係社で仕事を発注してくれる可能性の高い人
- これまで絵に興味はなかったがなんとなく気になって入ってみようと思った人
ぱっと考えただけでもこれだけの人物像があがってきます。
このうち、あなたの個展に一番きてほしいタイプの人はどの人でしょうか?
もし1の人に来てほしいとしましょう。
そもそも、なぜ1の人に来てほしいのでしょうか?
自分の絵をその人のブログで紹介してもらい、自分の絵の認知度を高めるためですよね。
ということは、その人のブログが「自分の絵の認知度を高める」のに効果的である必要があります。
たとえばその人のブログが株式投資に関するブログで、ブログ読者のほとんどが絵に興味がないとしたら、その人のブログで紹介してもらう意味はありません。
逆に、美術館やギャラリーを巡るのが趣味で写真付きで紹介してくれるような人のブログの場合、その読者も美術館やギャラリーに興味があるでしょうから、自分の絵の認知度を高めるのには非常に効果的です。
このように「どんな人にサービスや商品を提供したいのか、それはなぜなのか」をなるべく具体的に考えていくことが重要です。できればその人物像を可能な限り具体的にしましょう。友人知人に思い当たる人がいる場合にはその人をモデルに考えても良いでしょう。
そうすることで、自分のターゲットとする人が何を求めていて、どのようにアプローチすれば良いのかがわかってくるからです。
case study:私の場合
私がターゲットを想定したときのことを書き記しておきます。
もちろん、すべての人があてはまるわけではありません。
あくまでもひとつの例としてお読みください。
私の場合、「そもそも絵を買って飾る、ってどういうことだろう?」というところからスタートしました。
私が絵を置く場合、自分の作品を置くことになります。
絵を置くのには
- 自分で絵の仕上がりを確認する
- 人に見せる
という二つの目的があります。
ここで気づいたのですが「自分の部屋に絵を飾る」というのは、実は自分の楽しみとしてだけでなく、人に見せる、という目的もあるのです。自分の部屋に人を招く、ということは自分の生活空間を相手に見せることです。生活スタイルや持ち物、趣味嗜好を相手に見せることです。絵の場合は自分に趣味嗜好を見せることになるでしょう。
「自分はこういうものが好きだ」を相手に示すのは、自分の考え方を相手に示すこと、つまり自己表現です。ということは、「絵を飾る」とは自己表現の一貫でもあると考えることができます。
ここでふと、「そういえば絵を飾るのは個人だけではない。会社の応接室やレストラン、ホテルの客室にだって絵は飾ってある」ということに思い当たります。こうした「常に誰かがやってくることが想定される場所」に絵を飾るということはどういうことだろうか。それは「お客様に対して会社もしくはお店が提供しているものを的確に表現すること」、つまり企業としての自己表現であるといえます。
しかし、現実的にはそうした企業が適切に自己表現できているか、というとそうではありません。聞いた話によると、一般的な中小企業の応接室でも、ちゃんとした絵ではなく、ストックフォトからもってきたちょっときれいな写真をプリントして飾っているところもあるそうです。それでは企業のイメージダウンにつながります。
ということは、企業のブランディングや空間演出の一貫として絵を導入していく、というやり方も十分考えられるはず。
そのためには一緒に仕事ができる建築設計やインテリアデザインの人たちと話をしていけば良い・・・
このような流れで私自身は主に建築関係、インテリアデザイン関係の方々との関係作りに奔走しているわけです。
逆にギャラリーや画廊とは距離をおいています。
自分から協業できる方にアプローチしていけば、マーケティングや広報の機能は自分自身が果たすことになります。ギャラリーや画廊は広報の機能をアーティスト側がアウトソーシングすることに他なりません。その機能をアーティスト自身が果たせるのならば、ギャラリーや画廊とはつきあう必要がないからです。むしろ中間マージンをとられて手元の利益が減ってしまうことになります。
したがって、私自身はギャラリーや画廊に戦略的に嫌われようとしています。
ターゲッティングはあなたが「顧客になりうる人たちにどのようにアプローチしていくか」を考える上で非常に重要です。人には限られた時間と労力しか与えられていませんから、そこからいかに最大の効果を引き出すか、を考えるべきなのです。
日本ではまだまだ「とにかく苦労すれば良い」という発想が根強くあります。私はそうした「苦労一辺倒主義」は大嫌いです。無駄な苦労は人をどんどんすり減らしてしまうからです。それなのに、なぜか無駄な苦労が賞賛される傾向にある。これでは日本はますます沈んでいくばかりです。
もっと効率的に収益をあげる工夫をしましょう。そのひとつの技術がターゲッティングなのです。
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絵描きのためのビジネス戦略3〜絵描きとポジショニング〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
3週間ほど間があいてしまいました。
この間、w'ANDをとりまく状況が大きく変わってきました。
具体的な内容はまだお話しできません。
5月後半にはなにかしらご報告できるかと思います。
さて、“絵描きのためのビジネス戦略”の3回目です。
今回は“ポジショニング”についてです。
前回は「ビジネスの目的は収益をあげること」ということを書きました。
収益をあげるのは生活基盤を安定させ、事業を継続していくための必須条件です。
どんなに崇高な理念を掲げていても、収益があげられなければ趣味でしかありません。
では、収益をあげるためには具体的に何をしたら良いのでしょうか?
今回から数回に分けて、絵描きが収益をあげるための戦略を考えていきたいと思います。
コーヒーショップにおける“ポジショニング”
マーケティングの用語に“ポジショニング”という言葉があります。
“ポジショニング”とは「あなたの提供する商品・サービスの市場における位置づけ」です。
コーヒーショップチェーンを例にとりましょう。
皆様はスターバックス、エクセルシオール、ベローチェ、ドトール、サンマルクの5つのうち、どれが一番お好みですか?
私は1時間〜2時間くらいひとりで本を読むならコーヒー1杯180円のベローチェを選びます。
しかし、ベローチェのスイーツ類はあまり美味しくないため、スイーツが食べたいときはサンマルクです。
すこし小腹がすいた時はドトールでサンドイッチ類をテイクアウト。
人と会ってゆったり話しをするときはチェーン店はつかいません。
このように、コーヒーショップチェーンといっても様々な種類があります。
それぞれに特徴があり、こちらが求めているもの(安いコーヒー、美味しいスイーツ、人と話す親密な空間)によって使い分けることができます。
逆に考えると、それぞれのコーヒーショップが主に提供するものを変えて客層をずらすことで、市場での真正面勝負を避けている、と見ることもできます。
スターバックスとドトールを比較してみましょう。
スターバックスには次のような特徴があります。
- 店内禁煙
- 広い店内とゆったり座れるスペース
- 家では作れない種類のコーヒー
- フード類は少ない
ドトールの特徴を対応させると次のようになるでしょうか。
- 店内喫煙可
- 店内はあまり広くなく一人当たりの面積が狭い
- 主力は一般的なコーヒー
- ランチや軽食に最適なフード類が豊富
この比較から浮かび上がるスターバックスとドトールの大きな違いは「回転率」です。
店内が広くゆったりできるスターバックスはお客さんの滞在時間が長くなる傾向があります。対するドトールを思い浮かべると、ゆったり座れる椅子がなく、お世辞にも「居心地が良い」とは思えません。だから、ドトールではお客さんの滞在時間は短くなります。
スターバックスはドトールに比べて回転率が悪くなるため、客単価をあげる必要があります。そのため、通常のコーヒー以外に様々な珍しいコーヒーを用意して一品あたりの価格をあげています。一方、ドトールは回転率がいいため、客単価が安くてもよく、一品あたりの価格を低く抑えられます。
ひとりでゆったりとした時間を過ごしたい人はスターバックスに足を運ぶでしょう。一方で短時間でお昼を済ませたい人やアポイントメントまでのちょっとの時間を埋めたい人はドトールを選ぶのではないでしょうか。
このように、コーヒーショップチェーンといっても提供する商品やサービス、価格設定、店内の作りによって自分たちが市場に対して提供している価値を変えているのです。
これが“ポジショニング”です。
絵描きにとっての“ポジショニング”
では、皆様のような絵描きはどのようにポジショニングをしたら良いでしょうか。
といっても、難しいことを考える必要はありません。
実はもうすでに、あなたの市場におけるポジションはほとんど決まっているのです。
通常なにかの事業を始めるとき、最初に「どんな商品やサービスを提供するか?」を考えます。
飲食店をやるのか、印刷屋をやるのか、電機メーカーをやるのか、医者になるのか。
そのために市場の成長性やら競合他社の存在やら、あれこれ考えなければなりません。
けれど、絵描きの場合はそれを思い悩む必要がありません。
なぜなら、あなたはすでに“絵描き”だからです。
“絵描きであること”があなたが市場に対してすでにとっているポジションなのです。
では、ある人が「飲食店をやろう」と思ったとします。
次に考えるのはなんでしょう?
そうです、「どんなジャンルの飲食店をやるか?」です。
和食、イタリアン、フレンチ、スイーツ、ファストフード、いろんな選択肢があります。
しかし、ここでもあなたは思い悩む必要がありません。
あなたの描いている絵はどんな絵ですか?
かわいい系ですか?
クール系ですか?
きれい系ですか?
グロテスク系ですか?
これによってあなたが市場に提供できる商品カテゴリー(=絵のジャンル)が決まります。
これは同時に、あなたの絵を必要とする人を絞り込むことを意味します。
赤ちゃんのいるおかあさんはかわいい系の絵を必要とするでしょうが、グロテスク系の絵は必要としないでしょう。
ハードロックが好みの男性ならクール系の絵を必要とし、かわいい系の絵は必要としないでしょう。
このように、あなたは「絵描きであること」と「あなたの描いている絵のジャンル」によってすでにポジショニングをしているのです。
もし「きちんと収益をあげていきたい」とお考えならば、「自分は市場においてあるポジションをとっている」ということを明確に意識してください。
ポジションをとるということは顧客を絞り込むことです。
顧客を絞り込む、ということは、スターバックスとドトールの違いでみたように、ビジネス戦略を練る上で重要な要素になってくるからです。
※「ジャンルにこだわらない、売れる絵ならなんでも描く」という方はこの限りではありません。その場合、成長分野がどんなジャンルか、競合状態はどうか、市場規模はどのくらいか、といった市場調査が必要になります。
今回は絵描きにとっての“ポジショニング”を考えました。
あなたが絵描きであることと、あなたの描いている絵のジャンルによって、あなたの市場におけるポジションはほぼ決まっています。それは顧客を絞り込んていることを意味しているのです。
自分のポジションをはっきりと意識してください。
そのためには「あなたの描いている絵はどんな絵で、それにお金を払ってくれるのはどんな人か」を考え抜くことです。
それが次回お話しする“ターゲッティング”につながっていきます。
関連記事:
- 絵描きのためのビジネス戦略1〜経済的自立はなぜ必要か〜(2013年3月26日)
- 絵描きのためのビジネス戦略2〜収益をあげることが大前提〜(2013年3月27日)
- 絵描きのためのビジネス戦略4〜効率とターゲッティング〜(2013年4月18日)
- 絵描きのためのビジネス戦略5〜自己満足と顧客満足〜(2013年4月30日)
- お金の超初心者がお金の勉強をするのに使ったサイト3つ+本4冊(2013年2月23日)
絵描きのためのビジネス戦略2〜収益をあげることが大前提〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
前回から“絵描きのためのビジネス戦略”と題した記事を書き始めています。
私自身も含め、日本のアーティストの皆様がアートで自立できることを願ってのことです。
「絵で食っていくなんて無理」
世間ではそんな声が一般的でしょう。
絵描きになることを推奨する声をほとんど聞いたことがありません。
それだけ「絵で経済的に自立することは難しい」と考えられているようです。
私自身は絵描きが経済的に自立することは世間が思うほど難しいことではない、と考えます。
経済的な自立は難しい、と世間が考えるのは、絵描きを限定的なイメージで捉えているからだと、私は考えます。そして絵描き自身もその限定的なイメージの中でなんとかしようとしているからこそ、経済的な自立が難しくなっている。自分で自分の首を絞めているように私には見えてしまうのです。
その限定的なイメージとは「絵は個展や展示会などで売るもの」あるいは「本の装丁や挿絵、CDジャケットなどに使われる」というものです。絵は本来さまざまなシーンで用いられるものですが、その可能性の範囲を多くの人がせばめてしまっています。アーティスト自身、そうした可能性にあまり目を向けていないのが現状だというのが、私の感触です。
その限定的なイメージを取り除き、アートを改めて「ビジネス」という観点で見直すのが、“絵描きとしてのビジネス戦略”の目的です。
アートがきちんと収益に結びつけば、生活基盤が安定するでしょう。そうなれば、私が過去見てきたように「生活ができなくなって絵を辞めていく」という人が減るはずです。優れた才能をもつ人がひとりでも多くアートで自立できれば、日本のアートシーンはより活気づいていくでしょう。それが私の願いです。
これから何回かにわけてお話しするのは、アーティストがビジネスで自立するための考え方です。「絵を描く以外のことは何があってもやりたくない」とお考えの方、「いつかパトロンがつくのを待っている」という方のお役には立てないでしょう。逆にご自身で行動を起こされる心構えのある方には、なにかしらの手助けになるはずです。
それでは、始めましょう。
ビジネスにおける5W1H
前回も書いた通り、どんなビジネスでもまずは5W1Hを考える必要があります。
- 「なにを(what)」=提供する商品、サービス
- 「だれに(who)」=想定するお客様
- 「なぜ(why)」=商品・サービスを提供する意味と価値
- 「どこで(where)」=商品やサービスを提供する場所、地域、リアルorネット
- 「いつ(when)」=商品・サービス提供の時間帯、曜日、季節など
- 「どのように(how)」=5Wを具体的に提供する方法
※「どのように(how)」を「いくらで(how much)」に置き換えてもいいでしょう。
この5W1Hにひとつずつ、自分なりの答えをしっかり出していくことで、自然とおおまかなビジネス戦略は出来上がっていくと私は考えています。
世の中にはフィリップ・コトラーのマーケティング理論やマイケル・ポーターの競争戦略理論といったさまざまなビジネス戦略の理論が出ており、実際に現場で活用されています。これらの理論は経営学の先生たちが統計データや企業の事例を通して研究した成果です。それを学ぶことがむだだとは思いませんし、私自身、コトラーやポーターの理論をある程度は参考にしています。
しかし、ここでの目的はあくまで「アーティストであるあなたがビジネス戦略を立てられるようになること」です。経営学を学ぶことが目的ではありません。もしこの記事をきっかけに経営学に興味をおもちになったら、どうぞ専門書でより深めていってください。
すべてのビジネスの目的は収益をあげること
具体的な話題に入る前にまず確認したいことがあります。
「すべてのビジネスの目的は収益をあげること」
なぜこれを確認したかというと、勘違いされている方が多いからです。
「ビジネスとは社会貢献することではないのか」
「困っている人を助けるのがビジネスでしょう」
「ビジネスは夢をかなえていくためのものです」
このようにおっしゃる方も多いかと思います。
たしかにその主張は間違っていません。しかし、これらは「あなたが商品やサービスを提供することでもたらされる価値」であって、「ビジネスそれ自体の目的」ではありません。ここを取り違えて混乱している方が多いように思います。
病院の例が分かりやすいかもしれません。
お医者さんの多くは「病気の人をたすけたい、苦しみを少しでも減らしたい」と考えているでしょう。これは「お医者さん自身が医療行為を患者さんに施す目的」です。つまり「お医者さん自身の目的」、5W1Hでいうところの「なぜ(why)」に相当する部分です。
しかし、実際には病院を経営していかなくてはなりません。病院経営の目的は収益をあげることです。収益をあげなければ病院を存続させられないからです。
「ビジネスを行うあなた自身の目的」と「ビジネスそのものの目的」ははっきり切り分けて考えるべきなのです。でなければ、収益をあげることだけが目的になってしまうか、収益をあげることを無視してしまうか、いずれかになってしまうからです。
※収益をあげることは重要ですが、それだけが目的になることを私は良いことだとは考えていません。それについては別の項目でご説明したいと思います。
ビジネスを続けていくには収益をあげなければいけません。ですから、これからあなたがアートをビジネスの観点から見直そうとするとき、「収益があげられること」を大前提に考えていかなければなりません。
収益の2つの柱
「収益をあげること」がビジネスの目的です。
これから考えていくのはビジネス戦略、つまり「いかに収益をあげていくか?」ということです。
収益には大まかに2種類あります。
- 勤労所得
個人の労働に対して支払われる対価。給与、賃金、謝礼金、報酬など。
- 不労所得
労働の必要がない所得。不動産収入、株式による利益、印税、ライセンス収入など。
会社勤めやアルバイトの対価は給与所得として支払われます。絵を売った場合、その絵を描いたという作業に対して対価が支払われているので、これも勤労所得と言えるでしょう。
一方、絵描きの場合でしたら画集などを出版してその印税が得られれば、不労所得になります。もちろん画集を作るのに割いた労力はありますが、印税はその労力に対して支払われているものではありません。画集出版に際して勤労所得があるとしたら、原稿料という形になるでしょう。
一般的に、収益を確保していくには不労所得の比率を高めていくのが望ましい、とされています。
たとえば本を出版した場合のように、一冊あたりの印税額は高くなくとも、長期的に収益があがる手段を確保できたら、収益としては安定するからです。
キャラクタービジネスが良い例でしょう。キャラクターを発案し、グッズ展開されてビジネスが広がっていった場合、キャラクターのライセンス料が不労所得になります。ヒットすれば大きな収益の柱になるでしょう。そこまでヒットしなくても、そうした不労所得による収益があることは経済的な安定につながるのです。
逆に、会社勤めである、つまり勤労所得が収益の柱で、しかもそれが一つしかないのは非常に危険です。会社が倒産する、解雇される、という事態になればあなたは収益の柱を一挙に失ってしまうことになるからです。
個人起業の本には必ずと言っていいほど次のことが書いてあります。
「取引先はひとつにしぼらず、複数にすること」
クライアントや取引先を、相手が大手だからといってひとつにしぼってはいけない、ということです。その相手がいなくなったら、取引相手がひとりもいなくなってしまうからです。
これと同じように、収益の柱もひとつにしぼらず、複数もっておいた方が、安定した収益を得ることができるでしょう。
※ただし、注意していただきたいのは「不労所得のパフォーマンスは時間経過とともに変化する」という点です。もしあなたがマンションをもっており、家賃収入があるとします。マンションがすべて埋まっていれば問題ありません。しかし、今後20年の間に東京の空き家率は40%を超えるようになる、とも言われています。20年後にあなたが同じ家賃収入を得られるとはかぎりません。
したがって、不労所得の源泉は定期的なメンテナンスが必要です。場合によっては思い切ってマンションを売却してしまった方が良い場合もあります。
これは投資と回収の考え方そのままです。投資に関してはまた別の項目を立てて考えていきたいと思います。
経済的な自立を得るにはお金を得る手段をもつことが必要です。
ここは勘違いしないで欲しいところです。
生活基盤を安定させるのはお金そのものではありません。お金を得る手段です。
お金がなくても、お金を得る手段さえもっていれば、いつでも生活に必要なお金が得られるようになります。その「お金を得る手段」がすなわち「ビジネス」なのです。
次回からビジネスにおける5W1Hをひとつずつ、考えていきましょう。
関連記事:
- 絵描きのためのビジネス戦略1〜経済的自立はなぜ必要か〜(2013年3月26日)
- 絵描きのためのビジネス戦略3〜絵描きとポジショニング〜(2013年4月15日)
- 絵描きのためのビジネス戦略4〜効率とターゲッティング〜(2013年4月18日)
- 絵描きのためのビジネス戦略5〜自己満足と顧客満足〜(2013年4月30日)
- お金の超初心者がお金の勉強をするのに使ったサイト3つ+本4冊(2013年2月23日)
絵描きのためのビジネス戦略1〜経済的自立はなぜ必要か〜
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
これまで「なぜ絵描きにビジネス感覚が必要か?」という記事をいくつか描いてきました。
それらの記事は今思うと、「じゃあ具体的にどうしたらいいの?」という疑問には答えていませんでした。
そこで、これから何回かに分けて、絵描きとして自立していくための具体的なビジネス戦略を考えていきたいと思います。
そのため、まず前段として次の2点を確認しましょう。
- 絵描きにビジネスが必要な理由
- ビジネスとはなにか?
なお、これから数回に分けて書く「絵描きのためのビジネス戦略」は次のような絵描き、イラストレーター、アーティストの方を対象にしています。
- これから絵で食べていきたい、と考えている
- 今、絵で食べているが、思うように収益があがらず困っている
- 副業として絵を描いているが、もっと効率的に絵で収入を得たいと考えている
- 会社勤めをしているが、今後独立を考えている
逆に、次のような方には参考にはならないでしょう。
- すでに絵で十分な収入があり今後も十分な収入が見込める
- アートをビジネスとしてとらえており、十分学んできた
- 趣味で絵を描いており、絵で収入を得る必要はない
- アートはお金もうけの手段ではない、と考えている
- お金もうけは汚いことだと考えている
経済的自立は絵を描き続けるため
このブログのなかで「絵描きもビジネス感覚をもつべきである」という主張を繰り返してきました。
それは絵を描き続けるためです。
そのためには経済的自立が必須だと、私は考えます。
あなたは今、絵を描くことで生活が成り立っていますか?
アルバイトや会社勤めが必要だとしたら、生活が成り立っているとはいえません。
デザイン事務所や印刷会社でイラストレーションの制作をしている場合はどうでしょうか。
給与収入があるので生活が成り立っているといえます。
それは本当の意味での「経済的自立」でしょうか?
あなたが勤めている会社が倒産した場合、あなたは自分の力で、生活をするためのお金を得られますか?
もしそうでないなら、あなたは経済的に十分自立しているとはいえません。
「絵を描き続けたい」と思った場合、生活基盤を安定させることが必要になってきます。
生活とは衣食住を満たすことです。衣食住が満たされていない状態で絵を描き続けていくことは難しいでしょう。衣食住が満たされていない、ということは絵を描いても衣食住を満たすだけの収入が得られていない、ということだからです。
そのような状態に陥って、残念ながら絵をやめていった知人が何人もいます。
生活基盤を安定させるには少なくとも生活を成り立たせるだけの収入が必要です。
そのための金額は人によって異なるでしょう。
しかし、いずれにせよ、収入は必要です。
もしあなたが絵を生業としていきたいのなら、絵を収入の源にしなければなりません。
ですから、あなたはあなたの絵をビジネス的な観点で考え直す必要があるのです。
そもそも「ビジネス」とは?
「ビジネスをする」ということは「商品やサービスを提供してお金を受け取る」ことです。
絵で言えば「あなたの絵が売れるようにする」ことです。
あなたの絵は売れていますか?
もし売れていないとしたら、それはなぜでしょうか?
逆に売れているとしたら、それはなぜでしょうか?
きちんと考えたことがありますか?
最近では、それなりに実績のある画家さんでも個展で絵が売れない方が増えてきているそうです。
そういう方々の中にはこんなふうにぼやく方もいらっしゃるそうです。
「最近のひとたちは芸術を理解していない」
本当にそうでしょうか。
この言葉は音楽業界の方が「近頃CDが売れないのは音楽が理解されなくなってきたからだ」と言っているのと同じです。
商品が売れない責任を消費者に押しつけ、消費者が望んでいることを理解しようとしていないのです。
ビジネスは「なにを」「だれに」「どこで」「いつ」「なぜ」「どのように」売るかを考えることから始まります。
文章を作るときの5W1Hと同じですね。
ビジネス戦略の立て方は経営学の先生たちや経営の達人と言われる人たちがさまざまな本でさまざまなことを言っています。細かい部分では異なりますが、まずこの5W1Hが明確でないとそもそも何をしたら良いのか分かりません。
これから数回に分けて、「絵描きにとってのビジネス5W1H」を考えていきたいと思います。その過程で、今後どのように絵に向き合っていったら良いか、のヒントが見つかるかもしれません。
関連記事:
- 絵描きのためのビジネス戦略2〜収益をあげることが大前提〜(2013年3月27日)
- 絵描きのためのビジネス戦略3〜絵描きとポジショニング〜(2013年4月15日)
- 絵描きのためのビジネス戦略4〜効率とターゲッティング〜(2013年4月18日)
- 絵描きのためのビジネス戦略5〜自己満足と顧客満足〜(2013年4月30日)
- 絵描きがギャラリーと決別すべき理由(2013年3月25日)
- 絵描きにもビジネス感覚が必要な理由(2013年3月1日)
ここで絵が売れないことの絵描き側の問題点を指摘しています。具体的な方法論についてはほとんど言及していないので、これから書く「絵描きのためのビジネス戦略」を参照ください。
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
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絵描きがギャラリーと決別すべき理由
w'AND illustration代表の佐藤祐輔です。
ここで何度も書いているように、私は「アートをビジネスとして成立させる」ことを目標の一つに掲げています。
事業を立ち上げるとき、その目標の最大の弊害になるのがギャラリーである、と考えました。
私は当面の間、ギャラリーを利用した個展は行うつもりがありません。
その理由について説明したいと思います。
この記事は「これから本気でアートで食べていきたいと考えている方」を対象としています。ですから、次のような方はこの記事の対象にはなりません。
- 集客や広報など、アーティストのサポートをしっかり行っているギャラリーの方
- 個展をやれば確実に収益が見込め、十分生活が成り立つアーティストの方
- 展示することに意義があると考え、収益は度外視しているアーティストの方
逆に、次のような方に読んでほしいと思います。
- 個展などを行ってきたが期待するほどの収益が得られていないアーティストの方
- これからアートで食べていきたいがどうしたら良いか分からないアーティストの方
ギャラリーでの展示は「期間限定でお店を開く」こと
「絵を売る」ことを目的とした場合、「ギャラリーを借りて個展を開く」ということは「期間限定でお店を開く」ことと同じです。
展示経験の浅いアーティストはここを勘違いしがちです。
ギャラリーがアーティストをプロデュースしてくれるわけではありません。
私自身もそうでした。
あなた自身のことを考えてみてください。
あなたが何を売っているかよく分からないお店に入る確率はどれくらいでしょうか?
街中であなたがそのお店に入るきっかけになるくらい興味をひく商品がどれだけあるか、考えてみましょう。
ショーウィンドウに興味のある商品が並んでいれば、そのお店に入ることもあるでしょう。ですが、残念ながら、通りすがりの人があなたの絵に興味を持つことは極めてまれです。
積極的に集客・広報活動をしなければ、あなたの個展はほとんど人がこない非常にさびしいものになるでしょう。
ギャラリーの広報活動は限定的
私が過去、個展やグループ展を行ってきたギャラリーはすべて、残念ながら集客や広報に積極的ではありませんでした。私が利用した以外に、これまで見てきたギャラリーの多くがそうです。
集客、広報はアーティストが自分でやるのが原則です。ギャラリーがアーティストをプロデュースするのは極めてまれなケースです。
利用する際に説明を受けたときには「顧客リストにDMを送る」というサポートをしてくださるギャラリーもありましたが、その「顧客リスト」のうち、どのくらいの人が自分の絵に興味をもつか疑問です。
最悪のケースだと、「個展をやったが土日に友人知人の一部しか来なかった」ということもあります。
「展示中に絵が新規顧客に売れること」を目的とするなら、この状況ではコストをかけて展示をする価値がありません。
東京都内のギャラリー賃料は6日間15万円程度が相場です。
銀座の一流と呼ばれるギャラリーになると1週間100万円するところもありますし、逆にギャラリーカフェのような場所では、店内の一部を3万円程度から借りられるところもあります。
この違いは、ギャラリーがもっている顧客の厚さ、見込まれる集客数、運営側の力の入れ具合などによって生まれるようです。
一般的なギャラリーの場合、運営側が集客に力を入れることはあまりありません。
「顧客リストにDMを送る」ことは多くのギャラリーでしてくれます。
それ以上のことを望むのなら、より高額だけれどもサポートのしっかりしたギャラリーを選ぶか、アーティスト自らが集客・広報活動をする必要があるのです。
ところが、多くのアーティストが集客や広報のノウハウをもっていません。
ここにギャラリー側とアーティスト側のミスマッチが発生するのです。
私がギャラリーと決別した理由
これまでの展示経験をふまえ、自分の絵で収益を出そうと思った場合、「ギャラリーで個展」というやり方は私自身にとって非常に効率の悪い方法である、という結論に達しました。
そこで、私自身は「自分の絵に興味をもってくれる人を自分から探しにいく」という活動に重点をおくようになりました。
「ギャラリーで展示をすることは期間限定のお店を出すこと」です。
一般のお店と同じで、広報活動に力を入れなければなりませんし、広報の効果が出てくるのには時間がかかります。効果を確認するためには個展を開かなければならず、コストがどんどんかさんでいきます。
これでは効率が悪い。
展示をやるアーティストはよく「たくさんの人にみてもらいたい」ということを口にします。
その真意はどこにあるのでしょうか?
収益を目的とする場合、「たくさんの人がみてくれれば、少しはお金を出してくれる人があらわれるだろう」という思いが背景にあるでしょう。
けれど、実際に「ギャラリーに足を運ぶ」という行動を起こさせるのはハードルが高い。もし来てくれたとしても、どんな人かよくわからない「たくさんの人」を相手にするのは大変です。
「相手に来てもらう」ことよりも「相手のところにいく」方がハードルはずっと下がります。
相手のところにいく場合、こちらから相手を選ぶことができます。
自分の絵に興味を持ちそうな人がどういう人か、を考えれば、会わなければいけない人も減るでしょう。
なんだかよくわからない「たくさんの人」に会うよりもずっと効率的です。
「たくさんの人」に見てもらうのも良いですが、「どういう人に見てもらいたいか?」を考えないと、ただの自己満足に終わる可能性が高いのです。
効果的にギャラリーを使うための留意点
それでも「どうしても個展をやりたい」という場合には次の観点でのギャラリー選びが重要になります。
- 自分の絵が売れそうな顧客をそのギャラリーはもっているか
- ギャラリーに入ってくる一般客の属性(年齢、性別、興味など)はどのようなものか
- 集客・広報のサポートはどこまでやってくれるのか
これらのことを考えずに「ギャラリーから展示の誘いがきたから」という理由で展示をしていると、絵が売れないどころか人もほとんど来ない展示になってしまうでしょう。
絵を展示するホームページを運営していると、そうした展示のお誘いメールがよくきます。
以前は「ギャラリーに見込まれた!?」と思ったものですが、よく内容を確認すると通常の賃料がかかることがほとんどです。こうしたお誘いのほとんどは「ギャラリー利用の広告」です。安易にのってしまうと時間とお金を無駄にすることになるので、よくよく検討したいものです。
私がビジネスにこだわる理由
アーティストがこのように収益にこだわることに眉をひそめる方がいらっしゃるのは十分承知しています。
「アートはもっと純粋なもので、金儲けの道具なんかじゃない!」
そういう気持ちは、私自身ももっていました。
私が収益にこだわるのは「絵を描き続けたいから」です。
どんな仕事でもそうですが、生活基盤が安定してはじめて良い仕事ができます。
生活できないほどになったら、その仕事は続けられません。
絵だってそうでしょう。生活できなければそれを続けることはできない。
生活が続けられなければ、どんなに「アートは純粋なものだ!」と叫んだところで、アートそのものが消滅してしまうでしょう。
そのためにも、私はアートをビジネスとして成立させたいと考えているのです。
関連記事:
- スヌーズレンとアートが拓く可能性(2013年3月14日)
アートにはまだまださまざまな可能性があると思っています。ギャラリーや美術館に展示するだけがアートではありません。その可能性に目を向ければ、アートをビジネスとして成立させることは十分可能だと考えます。
- “2つの工場”の思考実験〜“思い”とは何か?〜(2013年3月8日)
何かをしようと思っとき、まずは自分の存在を周囲にしってもらう必要があります。「広報は必要ない、良いものを作っていれば勝手に広まるから」という人もいますが、それは「すでにあなたのことを知っている人がある程度いる」ことが前提です。何かを始めたばかりの頃は、あなたの存在はほぼまったく知られていないといって良いでしょう。だから、広報は必要なのです。
- 絵描きにもビジネス感覚が必要な理由(2013年3月1日)
どんな仕事でもそうですが、ただ待っていればお客さんがくる、という時代ではなくなりました。自分の力でお客さんを探しにいく努力が必要です。だから、この先生き残っていくためにも、絵描きにビジネス感覚は必須なのです。
- 営業嫌いの背後にあるもの(2013年2月13日)
「良いものを作っていれば必ず売れる」という言葉の背後には「営業なんかしたくない」という気持ちが透けて見えます。しかし、良いものがそこにあるだけでは絶対に売れません。その存在が人に知られ、それが良いものであると認められる必要があるのです。そのプロセスを飛ばしてしまったら、本当は売れるものも売れなくなってしまいます。